ビット産業が国土を変える

(『ビット産業社会における情報化と都市の将来』、慶応義塾大学出版会、1999.1)

 

1.地方で根づくビット産業

 序章で見たように、ビット産業は、今後最も成長する産業として期待されるが、現在、どのような動きを示しているのであろうか。ビット産業全体については、統計デ−タがないので、情報サ−ビス業についてその動向をみてみよう。

1)再び成長期に入った情報サ−ビス業

 通産省が行っている『特定サ−ビス産業実態調査』(速報値)によれば、情報サ−ビス業(ソフトウエア業、情報処理供サ−ビス業、情報提供サ−ビス業、その他の情報サ−ビス業に細分される。)に属する業務を行っている事業所は、1997111日現在で、全国6,092、年間売上高75,849億円、従業者数は、427,436人となっている。

 情報サ−ビス業の売上高は1988年から急増し、1991年には7.0兆円に達し、1987年のおよそ3倍、年率32%の増加率で成長した。これに伴い、従業者数も同期間に2.1倍となった。売上高は1992年にピ−クとなったのちに減少に転じたが、1994年を底として再び増加基調にあり、1996年には過去最高の売上高を越えている。また、従業者数については、売上高よりも回復が遅れたが、1997年には、対前年比2.5%の増加に転じている。

 

31 情報サ−ビス業売上高、従業者数の推移

 

 

2)地方で根づく情報サ−ビス業

 次に地域別の売上高についてみると、東京、名古屋、大阪の3大都市圏への集中率は、1996年で82%と極めて高く、なかでも東京圏に65%が集中している。しかし、大都市圏及び東京圏への集中率は徐々に低下しており、1991年以降、地方圏のシェアが高まっていることが注目される。

 

32 情報サ−ビス業売上高の大都市圏・地方圏別シェアの推移

注)東京圏は、埼玉、千葉、東京、神奈川、名古屋圏は、愛知、3重、大阪圏は、京都、大阪、兵庫の各都府県。大都市圏は、東京圏、名古屋圏、大阪圏の計。地方圏は、大都市圏を除く全国。以下、この章において同じ。

 

 詳しくみるために売上高の対前年比をとってみよう(図33)。19881990年の需要急増期には、東京圏、地方圏とも対前年比3050%の極めて高い伸びを示していた。しかし、1991年になると、東京圏の売上高は減少に転じたが、地方圏は依然伸びており、1993年以降は、東京圏・地方圏とも減少に転ずるが、地方圏の減少はわずかに止まっている。地方圏のシェアの高まりは、この後退期において相対的に減少が少なかったためである。

 しかし、1996年においては、地方圏の伸び率が横這いであるのに対して、東京圏は急増している。このことは、今後の動向を懸念する材料である(速報値には県別デ−タがない)。しかし、急激な需要の増加が先ず東京圏内での発注に向かうことは予想されることであり、中長期的には、地方圏へも分散が進んでいくものと思われる。

 

33 情報サ−ビス業売上高対前年増加率

 

 一方、情報サ−ビス従業者数の対前年伸び率については、東京圏では、年ごとに増減を繰り返してきたが、地方圏は比較的安定して増加してきている。東京圏は、人材調達、人材減少ともが容易にできること、すなわち労働市場が発達していることを意味しよう。

 19871988年には、東京圏、地方圏とも極めて高い伸びを示しているが、1991年以降鈍化し、1992年には東京圏がマイナスに転じた。近年マイナス幅は、東京圏、地方圏とも小さくなっており、1996年には、両者ともわずかではあるが増加に転じている。その程度は、東京圏でやや高いが、売上高ほどの差はない。

 

34 情報サ−ビス業従業者数対前年増加率

 

3)依然低いパッケ−ジソフト開発

 今後の地方分散傾向を占う上で重要と考えられるパッケ−ジ・ソフトの開発の動向をみてみよう。

@業務種類別売上高

 業務の種類別に売上高をみると(図35)、ソフトウエアが最も多く、近年の増加もソフトウエア開発が増加していることによっている。

 

35 業務種類別売上高の推移

 

Aソフトウエア開発の比率

 ソフトウエア開発が情報サ−ビス業売上高に占める比率は、1984年には、33.3%に止まっていたが、その後増勢を強め、1991年には、60%を越えた。景気の後退により、受託計算などの比率が高くなり、ソフトウエア開発の比率は低下したが、近年再びソフトウエア開発の比率が高くなってきている(図36)。

 

36 情報サ−ビス売上高に占めるソフトウエア開発の比率

 

Bパッケ−ジソフト開発

 ソフトウエア開発のなかで、受注ソフトウエア開発とソフトウエア・プロダクト(いわゆるパッケ−ジソフト)開発の比率をみると、1984年に18.7%であったものが、年々シェアを低下させており、1997年で14.6%となっている。近年、統合ビジネスソフト等のパッケ−ジ・ソフトの導入は増加している。しかし、この市場規模は、まだ200億円程度といわれ、このカスタマイズ等も増加しているようであるが、統計に表れるほどではないようだ。

 

37 ソフトウエア開発に占める受注ソフトの比率

 

 

 

 

Cアメリカのソフト開発

 米国商務省統計局によると、1996年に、米国内コンピュ−タ関連サ−ビスの売上高は、1,790億ドル、日本円にして26兆円程度(1ドル=145円で換算)となっている。日本では、情報サ−ビス業は同年に7兆円である。ただし、アメリカの統計には、コンピュ−タ・ファシリティ・マネジメント、レンタル&リ−シング、保守・修繕、コンサルタンティング、その他が含まれており、これらは、日本の統計では、その他の事業所サ−ビス業もしくは専門サ−ビス業、リ−ス業等に含まれているものと考えられる。これらを除くと、1,303億ドル、19兆円で、日本の2.7倍となる。このうち、パッケ−ジ・ソフトは、355億ドル、5.1兆円で、27.2%を占める。受注ソフト、パッケ−ジソフトを合計したソフト開発に占める割合は、52.9%であって、日本の20%よりかなり高い。ただしそのシェアは、近年やや低下してきている。

 

D地方圏におけるパッケ−ジ開発

 1般的には、地方では、パッケ−ジソフト開発の方が有利であると言われている。この点について確認しておこう。図38は、パッケ−ジソフト売上高に占める地方圏の比率を示したものである。1980年代には10%程度に止まっていたものが、1988年の急増期に20%に高まり、その後、1991年にやや低下したが、再びシェアを増加させ、1996年には21.8%になった。しかし、売上高全体に占める地方圏の比率である18.2%と比べて、パッケ−ジソフトがとりわけ地方に分散しているとはいえないことに問題があろう。

 

38 ソフトウエア・プロダクト売上高の地方圏シェア

2)東京集中の原因

 情報サ−ビス業は、近年、地方圏のシェアが増加しつつあるものの、1996年において東京圏の売上高は65%と、依然、その集中率は高い。このような集中が発生したのは、どのような理由によるのであろうか。それは、まず、発注先が東京に集中していることである。1989年の『特定サ−ビス産業実態調査・情報サ−ビス業編』には、発注先と受注先の統計が掲載されており、これによると、全国の情報サ−ビス需要の66.0%が東京圏内からの発注である。このうち、68.8%が東京圏内の情報サ−ビス業に発注されており、残りは、東京圏外に発注されている。しかし、ほぼ同量が東京圏外から東京圏内の情報サ−ビス業に発注されているので、東京圏内の全国に対する受注シェアは、65.8%とほぼ発注額の比率に見合うものとなっている。ソフト開発が主に東京にある本社から発注されるために東京に需要が集中してしまうことを示している。

 発注先が東京の場合には、かつては、東京でしかその仕事をやり遂げることはできなかった。すなわち、ユ−ザ−に置かれたコンピュ−タのところで、ソフトウエア開発をする必要があったのであり、これが、ソフト会社から要員を派遣するというソフト業界特有の業態をもたらす原因ともなっていた。

 しかし、近年、急激にソフト開発環境が変化しており、ダウンサイジング及びOS等の開発環境の標準化が進んだことにより、自分のところのコンピュ−タで開発できるようになってきた。また、通信の発達によりユ−ザ−のコンピュ−タを遠隔操作で使って、テスト・ランをすることもできるようになっている。

 また、今回ヒアリングした仙台のパッケ−ジソフト制作会社では、これまでは、顧客からの問い合わせやクレ−ム処理を行う部門は、やはり東京に置いておく必要があったという。しかし、最近では、電子メ−ル経由で顧客のクレ−ム処理を行うことが可能となり、東京部門を廃止することができるようになっているという話である。

 また、ソフトウエアの内容も、従来のような顧客のそれぞれに対応した1品生産から、出来合いの統合ビジネスソフト等のパッケ−ジ・ソフトを導入する場合が増えている。もちろん、これを顧客の要望に合わせて改良するカスタマイズ作業なども発生し、この部門は、顧客の近くにある必要がある。問題は、このようなパッケ−ジ・ソフトが、主に外国のものが多く、日本では、そのカスタマイズする部門だけとなっているため、パッケ−ジ化の進展が、直ちには我が国のソフトウエア開発の地方分散をもたらしていないことである。むしろ、外国製品と地方のパッケ−ジソフト会社の製品との競合が発生している。

(3)情報化と地方立地の進展

 以上のように、情報通信手段の進展、開発環境の標準化、ダウンサイジングなどによって、クライアントのもつコンピュ−タへの緊縛度が減少し、東京からの発注が依然、支配的であったとしても、地方圏でも情報産業の成長が期待される。

 では、情報サ−ビス業においては、どの程度の頻度で顧客(及び顧客のコンピュ−タ)と接触していたのだろうか。これついての研究結果は極めて少ない。ただ、平成3年に行った調査によれば、ソフトウエア業従業者について、外出回数は、月3.5回、出張回数は、月0.6回、合計4.1回となっている。このうち、地方圏では、外出3.0回、出張0.9回、合計3.9回となっており、地方圏では、外出が少なく、出張が多くなっているが、合計では余り変わらない。したがって、

1回程度が平成3年頃の平均と考えられる。

 

32 ソフトウエア業従業者の接触頻度

大都市圏

うち東京圏

地方圏

外  出

3.6

2.9

3.0

3.5

出  張

0.6

0.6

0.9

0.6

合  計

4.2

3.5

3.9

4.1

注)平成32月実施、全国のソフトウエア業から100社を抽出、各社20人をサンプルして、2000を対象とした。有効回答数440

資料)地域振興整備公団都市整備計画部・計画研究所コスモプラン『研究会開発機能を中心とした複合ニュ−タウンのあり方に関する調査報告書』平成33

 

 今回行ったヒアリング調査(第23照)によると、岡山市のソフトウエア会社の場合、顧客との接触頻度は、既存ユ−ザ−では月に23回程度、新規ユ−ザ−では、平均して月に1回程度とのことである。また、マッピングシステム等のマルチメディア部門では、SEについて半年に2回(3ヵ月に1回)程度とかなり低くなっている。何分にも事例が少なく、統計的には明らかにできないが、月に1回程度でもソフト開発が可能となっており、また、3ヶ月に1回程度でもできる仕事も発生しているようだ。

 

 今後、情報通信手段が発展、とりわけ高速大容量の情報通信が安価になることによって、また、インタ−ネットのように通信費用を互いに分担し合うようなネットワ−クの進化により、顧客及び顧客のコンピュ−タとの接触の必要性は1層、減少していくことが予想され、これにともなって、情報サ−ビス業の遠隔地方圏を含む地方圏への展開が可能となっていくであろう。

 念のために付け加えれば、すべてのソフトウエア開発の仕事が分散可能と主張しているのではなく、顧客が持つデ−タを使わなければならないような場合とか、カスタマイズの仕事などでは、依然として、顧客の集中する東京で仕事をする必要があるだろう。しかし、そうでない仕事も確実に多くなっていくであろうと考えられる。

 

2.情報化と立地

1)立地コストの考え方

 ビット産業の立地がフットル−スとなっていくことを定量化してみたい。このために、立地コストという概念を導入する。

 ここで立地コストとは、「立地条件を考慮した従業者1人当たりの営業費用」と定義する。すなわち、ある都市Aから発注されるソフト開発業務をある都市Bとある都市Cで行った場合の営業費用の差を定量化しようとするものである。この構成要素としては、立地によらない共通の営業費用を基礎的営業費用とし、これに受注都市によって異なるコミュニケ−ション・コスト、不動産コスト、人件費、都市機能コストを加えたものである。

 

   立地コスト=基礎的営業費用+コミュニケ−ション・コスト

                +不動産コスト+人件費+都市機能コスト

 

 算定方法の詳細は、注1に述べてあるが、若干解説を加えると、コミュニケ−ションコストは、発注元である顧客の会社にどれだけ出かけるかを考慮して、その交通費と移動に要する時間を費用換算する。これは、東京から離れるほど高い。不動産コストは、本社ビルを維持する経費で、当然、東京より地方の方が安い。人件費は、生活費の安さを反映して、地方の方が安い。ヒアリングでも地方に立地するメリットとして、人件費の安さをあげたソフト会社が多い。都市機能コストは、地方では入手でき難い専門書とかパソコン用品とかを買い出しに、年数回は、大都市に行く必要があろう。本来は、人件費に反映されるはずであるが、現状では、高度労働力の地方分散が進んでいないために、人件費のデ−タには反映されていないと考えられるので、将来の人件費上昇要因として算入する。

 対象都市としては、国土を概ねカバ−するように選定する。福岡〜札幌までの線上に並ぶ13都市及び日本海側・内陸部として新潟、長野、4国から高松、9州内陸部として熊本の合計17都市をとりあげ、各都市における立地コストの計算を行う。

 

2)情報化と立地コストの変化

  以上の考えに従って、東京から発注されるソフトウエアを受注する場合の都市別のコストは、次のとおりである。@接触頻度=週5

 週の毎日、クライアントと接触しなければならない場合に相当する。この場合には、東京圏内が最も立地コストが低く、東京圏外では、ほとんど受注できないであろう。東京圏外の都市の立地コストを高くしている要素は、運賃が最も大きく、次いで移動に要する時間コストである。

 東京圏内を詳細にみると、現状では、東京都心よりも、大宮、横浜の方が立地コストは低くなっている。これは近年、ソフトウエア業が千葉幕張、横浜等に立地し始めていることに対応すると考えられる。

 

39 東京発注のソフトウエアの地域別受注コスト(接触頻度=週5回)

 

 

 

A接触頻度=週1

 接触頻度が週1回程度になると、運賃、時間コストの占めるウエイトは、縮小し、人件費のウエイトが高くなる。この結果、東京都心及び横浜の立地コストが相対的に高くなり、これよりも立地コストが低い都市がでてくる。東北方面では、福島、宇都宮、大宮であり、東海道方面では、静岡が有利となる。新潟、長野も東京よりも低コストとなる。とりわけ、大宮、静岡は、有利である。

 

310 東京発注のソフトウエアの地域別受注コスト(接触頻度=週1回)

B接触頻度=月1

 接触頻度が月1回程度になると、ほとんど日本全国にわたって東京よりも有利となる。特に有利な都市は、福島、静岡、岡山、高松である。仙台、広島、福岡の地方中枢都市では、土地コスト、人件費コストが高いため、むしろ地方都市の方が有利となる傾向がある。

 先にみたように、ソフトウエア開発では、すでに月に1回程度、クライアントと接触すれば、業務を行えるようになっている。このような業務については、すでに日本のどこにいても可能なようになっていると考えてよいであろう。

 

311 東京発注のソフトウエアの地域別受注コスト(接触頻度=月1回)

 

 

 

3.ビット産業の立地シミュレ−ション

  1. 立地シミュレ−ションの考え方

 以上のようにすでに日本のどこにいてもソフト開発が可能な立地構造になっていることが明かとなったが、このような立地コスト構造を前提とすると、今後、どのような都市がどの程度成長すると期待されるのであろうか。すなわち、その成長のスピ−ドを推測してみる必要がある。また、国土に適切に分散させていくためには、どのような戦略を採ったらよいのだろうか。このために、以下のような考え方でシミュレ−ションを行ってみた。

@受注可能都市

 『特定サ−ビス産業実態調査 情報サ−ビス業編』1995による情報サ−ビス業従業者1人当たりの売上高は、1,500万円(外注費込み)である(表213照)。これから受発注都市別の営業費用を引いた残りを、利益とみなし、利益がマイナス、すなわち売上高よりも営業費用が上回るところでは、受注できないものとする。

 例えば、先の結果によれば、週当たり1回の接触頻度の場合、東京からの発注業務は、仙台、福島、新潟では、受注可能であるが、札幌及び岡山以西では、コスト割れになって受注できないことになる。なお、月1回程度の接触頻度の仕事なら全都市で受注可能である。

A立地戦略

 新規にソフト開発拠点を立地させようとする場合の戦略を考えた場合、どの都市に立地しても、いくらでも従業者数を確保できると仮定すると、1人当たりの利益が最大である都市に集中投資することが最適戦略となる。すなわち、立地コストが最も低い都市に集中立地させればよい。

 しかし、かつて情報サ−ビス業が急成長していたときに、そのボトルネックは、人材調達であった。ソフトウエア各社は、人材確保のためにこぞって地方に開発拠点を設けた。しかし、どんな田舎でもよいという訳ではなく、一定の人材供給力のあることが重要である。すなわち、各都市において新たに雇用できる人数には1定の限界があることが経験的に明らかである。

 人材確保の容易さは、その都市の情報産業に従事している人材のストックに比例すると考えてもよいであろう。立地戦略は、また、立地コストを考慮した利益率にも依存するであろう。そうすると、最終的な立地戦略は、ある都市の情報サ−ビス業従業者数×1人当たりの期待利益(=総利益)をパラメ−タとして、これに応じて新規の立地を配分していくことが最適となるだろう。

 なお、本モデルの限界としては、全国を17都市で代表させていることであるが、17都市の情報サ−ビス業売上高合計は、1995年で56660億円であり、全国の63622億円のうち、およそ90%をカバ−している。

 また、現在の従業者数をベ−スに成長していくモデルであるため、地域を分割しても、ト−タルの立地量には変化がない(基準化)ことを注記する。

 この考え方に即した具体的計算手順は注2のとおりである。

 

2)シミュレ−ション結果

@接触頻度=週5

 接触頻度が週5回の高頻度であっても大都市圏(東京、大宮、横浜、名古屋、大阪の計とする。以下同じ。)のシェアは、1995年の86.5%から2005年には85.6%ほとんど変わらない。このシェアは、発注量に見合っており、かつての高頻度での顧客との接触を必要とした状況での東京集中をシミュレ−ションしたものと考えられる。

 しかし、東京圏内では、東京区部が56.4%から42.5%に減少し、大宮が0.7%から11.2%と大きく伸びている。また、横浜もシェアを増大させている。既にこの場合でも郊外化が促進される環境となっている。

 1方、地方圏(大都市以外の12都市とする。以下同じ。)のなかでも地方中枢都市(札幌、仙台、広島、福岡の4都市とする。以下同じ。)のシェアは、同期間に8.8%から7.6%とやや低下し、その他の地方圏の増加が大きいことは、既に地方中枢都市が集中の弊害が生じていることを示唆させる。

 

312 接触頻度週5回における圏域別シェア予測

 

A接触頻度=週1

 接触頻度が週1回の場合には、大都市圏のシェアは、86.5%から65.3%へと急激に低下し、代わって地方圏のシェアが13.5%から34.7%へと急拡大する。このケ−スでは、地方中枢都市でもシェアの拡大がみられ、8.8%から10.4%へと増加する。しかし、その他の地方圏の伸びはこれ以上であり、4.7%から24.2%へと拡大する。都市別には、宇都宮を超えて福島にまで立地が進み、静岡も急増、新潟、長野も増加する。また、岡山、高松でも中程度の伸びとなると想定される。

 

313 接触頻度週1回における圏域別シェア予測

 

B接触頻度=月1

 接触頻度が月1回程度に低下すると、大都市圏のシェアは、2005年で62.7%となるが、週1回の接触頻度の場合と比べて劇的な低下ではない。

 地方圏のなかでは、地方中枢都市の伸びが大きく、8.8%から13.9%へと拡大する。都市別には、札幌、仙台、広島、福岡の全ての地方中枢都市で増加に転ずる。また、熊本でも0.3%から2.5%へとシェアを拡大させ、遠隔地方圏を含め全国どこでも分散が進むようになる。

 

314 接触頻度月1回における圏域別シェア予測

 

3)ビット産業が国土を変える

  以上のように、情報通信手段の発展とソフトウエアの開発環境の容易化によって、クライアントとの接触頻度が低下し、初期には、東京圏300キロメ−トル圏の都市で成長がみられ、後期には、地方のどこにおいてもビット産業が立地し得るようになると想定される。

 この結果は、あくまでも潜在的なポテンシャルを示したものであり、実際上、成長のネックとなるのは人材である。1989から1992年までの3年間に、情報サ−ビス業の従業者数は、大都市圏では20%、地方圏では40%増加した。この期間には、情報産業の利益率が増加、売上に占める人件費比率が低下していることから、相対的に人材不足が持続していたと想定され、この従業者増加率(年率13%)が事実上の成長限界であったと思われる。

 例えば、最も成長が見込まれる福島のケ−スでは、年率33%で成長しなければ、シミュレ−ション結果を実現することはできない。この成長の制約条件を解決していくためには、人材を集め、教育し、労働市場に供給する人材育成機関の充実が図られなければならない。

 これとともに、情報通信コストを低下させることが重要である。また、インタ−ネットのような相互に費用を負担する通信網を活用して、顧客のコンピュ−タを遠隔操作をする場合には、その回線能力を増強することが必要不可欠であるが、現在のインタ−ネットの仕組みでは、期待できないであろう。したがって、現在のインタ−ネット網とは別に、高速の回線網を建設すること、すなわち、各地の大学などを核としてこれを別途の高速の回線で結び、これにソフトウエア開発拠点などをぶら下げる、会員制のネットワ−クとしてのス−パ−情報ハイウエイの建設などが必要と考えられる。

 

 

 

315 情報サ−ビス業の成長予測

 

1 立地コストの算定要素

@基礎的営業費用

 基礎的営業費用とは、営業費用のうち立地によって金額が変化しない部分の費用である。交通費、接触に要する時間、通信費、不動産コストは、情報サ−ビス業が立地する場所によって変化する要素である。

 具体的には、『特定サ−ビス業実態調査 情報サ−ビス業編』(1995)による「外注費を除く従業者1人当たりの営業費用」1070万円をもって基礎的営業費用とする。

Aコミュニケ−ション・コスト

 コミュニケ−ション・コストとは、顧客との打ち合わせ等に要するコストであり、接触コスト及び通信コストに区分される。

ア 接触コスト

 顧客との接触に要するコストであり、「交通費」および「移動に要する時間コスト」によって構成される。なお、接触時間そのものは、立地によらない費用であって、基礎的営業費用に含まれる。

 時刻表により都市間の所要時間(待ち時間を考慮)を計算する。出発時点を朝8時台とし、最も到着が早い交通機関を選択して、移動時間及び運賃を計算する。往復で異なる交通機関を利用することがある。

 時間コストは、現状の平均給与から計算される労働コストを考慮して、時間当たり3000円とする。

イ 通信コスト

 通信コストについては、週3回、115分、クライアントと電話で連絡するものと仮定する。

 通信回線による遠隔コンピュ−ティング及び電子メ−ルに要するコストは、ここでは、インタ−ネット利用とし、立地によらない要素とした。

 

 以上のコミュニケ−ションコストについては、既に1定部分が交通費、通信費、人件費として上記の基礎的営業経費に含まれていると考えられる。ただし、情報サ−ビス業の受注額のうち、自県内からの発注先が74.4%(1989年『特定サ−ビス産業実態調査報告書 情報サ−ビス業編』による。)であるので、上記基礎的営業費用には、他県とのコミュニケ−ションコストは、余り入っていないと考えられ、そのまま加算するものとした。

 

B不動産コスト

 対象都市内の商業地域平均地価を採用して、自社ビルを建てるものとして、その運用コストを計算する。1人当たり20u、容積率200%、長期金利4%として年間経費を計算する。

 東京は23区平均を採用した。杉並など郊外部に4階建て程度のビルを建てるイメ−ジである。東京と福島では年間90万円程度の差が生ずる。

 土地コストは、対象17都市の単純平均との差分をとり、加算する。

 

C人件費

 労働省『毎月勤労統計調査月報』により、各都市が属する都道府県のサ−ビス業平均給与を採用し、17か月を乗ずることにより年収に換算した。平均686万円となるが、『特定サ−ビス業実態調査』によれば、情報サ−ビス業は502万円であり、30%程度低い。情報サ−ビス業では、若年層が多いためと考えられる。ただし、都市間の格差のみを算定するため、この絶対額の差は、結果には影響しない。

 

D都市機能コスト

 人口規模100万人級の都市(仙台を含む)に月1回行くための往復交通費を算定する。

 この費目については、全額加算する。

 

2 立地シミュレ−ションの手順

@1人当たり利益の計算

 1500万円を損益分岐点として、立地コストをこれから引いて、1人当たりの利益を求める。

A総利益の計算

 総利益=当該都市の従業者数×1人当たり利益を求める。

B当該都市からの発注額の計算

 1989年までの『特定サ−ビス産業調査 情報サ−ビス業編』には、都道府県別の需要×発注のOD表が記載されている。1989年における各都道府県別の発注高/売上高の比率を1定とみなし、1995年の各都道府県別の売上高に乗じて、各都道府県の発注高を推計する。

C全国の売上高増加分の計算

 1995年の全国の売上高を出発点に年間5%で増加していくものと仮定する。

D売上高増加分の都市別配分

 この毎年の増加分(全国)を、各受注都市別の総利益(=当該都市の情報サ−ビス業従業者数×1人当たり利益)に比例して割り振る。

E次年度の売上高の計算

 Dで得られた都市別の売上高を、1995年の各都市別売上高に加算して、1996年の都市別売上高を求める。

F発注額の計算

 1996年の各都市の売上高からBで求めた発注高/売上高により、発注高を推計する。C以下を繰り返し、2005年までの売上高を求める。